本の帯に「いま読まれるべき3.10東京大空襲の物語~父の国の大空襲から母を守り、炎の夜を生き延びろ!」と。
戦後の1960年生まれの作家が著した「東京大空襲」の小説。
「東京大空襲」を身をもって体験した方々は、最低80歳前後の方々だと思います。
当然、作者は「東京大空襲」どころか「戦争を知らない子供たち」。
終戦前後の日本の状況をテーマにした小説は、大好きなジャンルの1つなので結構読んでいるつもりでしたが、この小説の主人公の立場のような少年は珍しい。
主人公は、アメリカ名をアルバート(アンディ)モリソンといい、アメリカ人の父と日本人の母を持つ時田武という少年。
文中によると、当時彼のような日系人少年は2万人位いたそうです。
当時の日本の状況を考えると、とても苦しい(いじめの対象)立場にいる少年ですよね。
むずかしい立場にいる少年の戦争体験を戦後生まれの作家が書いた本。
思わず購入。
東京都は、1944年(昭和19年)11月24日以降、106回の空襲を受けた。
特に1945年3月10日、4月13日、4月15日、5月24日未明、5月25日-26日の5回は、大規模空襲だったそうです。
その中でも「東京大空襲」と言った場合、特に一番甚大な被害を出したのが小説に書かれている3月10日の夜間空襲(下町空襲)。
3月10日未明、米軍によって投下された焼夷弾と当夜の強い季節風(空っ風)により、東京市街地の東半部、実に東京35区の3分の1以上の面積にあたる約41平方キロメートルが焦土となり、10万人以上の方々が亡くなったそうです。
作者の母は都立第七高女(現・小松川高校)に通っている時に東京大空襲にあったそうですが、母から「その夜」のことを聞いたのは高校生の時に一度だけとか。
それでも作者は、「太平洋戦争」「東京大空襲」を風化させないように「愚かな戦争」を忘れないように40歳の時に「東京大空襲」を書いておきたいと思うようになってそうです。
「あとがき」にも「願わくば、この作品が主人公のと同じ14歳の少年少女に読まれますように。心に焼き印を押されたように、東京大空襲を忘れませんように。」と書いているよう現在の少年少女に読んでいただきたくて同書を著したとか。
気持は十分に分かるのですが・・・・、でも、でも・・・・、14歳前後の子供たちに読ませるには、とても面白く良い本だと思うのですが・・・・、残念なことに最後でコケてしまいました。
もったいないな~・・・・。
同書は、3月7日から4日間の出来事を書いています。
戦時下の下町の日常生活、学生の勤労奉仕、配給制による慢性的な物資不足・食糧不足、学童疎開、戦時下のファッション、憲兵の怖さ、学徒動員、鬼畜米英、B29、焼夷弾や3月10日の大空襲等々、現在の若い人たちが理解できるようにとてもうまく文中で説明しています。
しかし、何故最後の最後に主人公を3回も生き返らせてしまったのだろうか?
前述のように作者は、「愚かな戦争を風化させないように~願わくば、この作品が主人公のと同じ14歳の少年少女に読まれますように。心に焼き印を押されたように、東京大空襲を忘れませんように。」と書いているのに・・・・・・。
人の命は、ゲームではないんです。
人の命はリセットできないのです。
一度失った命は、元には戻れません。
しかし、同書では数回生き返ってしまうというSF的な仕掛けを入れているようですが、必要無いのでは・・・。
折角「東京大空襲」の中で生きた、当時2万人ぐらいしかいなかった珍しい日系人少年の戦時下の生き方・リアリティが失せた小説となってしまいました。
これを考えると、野坂昭如の「火垂るの墓」は素晴らしい小説ですね。
でも、単なる戦争小説として読めば面白いで、お勧めです。
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