ペンネーム「帚木 蓬生」は、「ははきぎ ほうせい」と読み、「帚木」も「蓬生」も源氏物語からとっています。
帚木 蓬生は、現役の精神科医兼作家。
代表作は、戦時中、韓国から労働力とし日本へ強制連行された韓国人をテーマにした「三たびの海峡」(第14回吉川英治文学新人賞受賞)。
日本敗戦後、憲兵の戦犯を取り扱った「逃亡」(柴田錬三郎賞受賞)。
病院の精神科の“閉鎖病棟”を舞台に、入院している個性的な患者の生活を描いた人間味溢れた「閉鎖病棟」(第8回山本周五郎賞受賞)。
東大安田講堂攻防戦を撮影したフィルムを放映しようとするテレビ局員と、それを阻止しようとするセクトの残党の争いを描いた「十二年目の映像」などがあります。
● 「蠅の帝国」 「蛍の航跡」
この2冊の小説は、戦記・戦争小説ですが、通常の戦記と比べると、前線での生々しい戦闘場面等の描写はほとんどありません。
帚木 蓬生が医者であることから、通常の戦記ものではほとんど取り上げられることのない軍医が体験した戦争に関する手稿を集めた記録文集です。
徴兵検査員、空襲、原爆、洞窟戦やソ連による占領、捕虜、戦犯。
前線で負傷した兵士、食べるものが無く飢餓状況になった兵士、南方特有の赤痢、マラリヤ等の病気に罹った兵士・・・・・、他の戦記物ではではなかなか読むことのできない内容となっています。
軍医とはいえ普通の兵士同様命令一つでどこへでも飛ばされ、与えられた状況下で全力を尽くしても、補給が絶たれ薬も医療器具もなく、負傷した兵士、病気になった兵士に対して何も手当てすることができない。
兵站病院をたたみ撤退せざるをえない状況を迎えた時にも、傷病兵を連れて逃げることもできず手榴弾や毒薬を与えなければならない。
また、お国のために戦って亡くなった将兵の記録もとらなければいけない。
もちろん軍医たちが死ぬことだってある。
戦争で散った軍医たちの無念さとともに、生き残った軍医たちの複雑な感情にも思いを馳せながら書かれたこの2冊。
若き軍医が極限状況下で見た「あの戦争」の本当の姿があります。
この2冊は、2012年 第1回日本医療小説大賞を受賞しています。
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