本書は、氏が広島の被爆者の姿を描いた朗読劇にイラストを添えて、小学生でも読める戦争物語として刊行されたそうです。
絵本の体裁となっているため、読むだけなら30分もあれば十分なんですが、考えさせられる本。
また、会話部分が広島弁になっているので、ちょっと読みづらいかもしれませんが・・・。
「少年口伝隊(くでんたい)」は、原爆によって印刷機を失った中国新聞社がニュースを口伝えで知らせる「口伝隊」を組織したという事実をもとに書かれています。
主人公は、1945年8月6日朝、米軍機が投下した原爆によって壊滅した広島の日治山のふもとに住む国民学校6年生の英彦、正夫、勝利の少年3人。
この3人は、かろうじて生き残ったものの、そろって家族を失い浮浪者に。
3人は、開設された「迷子収容所」で中国新聞の女性記者と出会い、行方知れずの家族を捜し、炊き出しにありつくため、新聞を発行できなくなった中国新聞社が急遽組織した軍や県の告知を伝えて歩く口伝隊に志願しニュースを口頭で市民たちに伝え歩く。
最初、少年達にはニュースの内容が理解できなかったが、徐々に内容を知り、大人達の変節ぶりに激しい怒りをおぼえる。
そして被爆1か月後、原爆で壊滅した広島に2千人以上の死者を出した枕崎台風が襲う。
勝利は水害で命を落とし、正夫は原爆症で死去。
15年後、英彦も原爆症のため、20代の若さで世を去る。
「戦争」「災害」「放射能」、その中で懸命に生き、死んでいった少年たちの姿を現在の子供達にもわりやすい形にした本書は、未来に残したい一冊だと思います。
本書の中で特に心に残った場面は、孤児となった少年たちが身を寄せる広島文理大学(現広島大学)の教師に向かって「もうええが、もうたくさんじゃ」と嘆くと、その広島文理大の哲学教師が、「狂ってはいけん」と言い、次のように少年を諭す場面。
「いのちのあるあいだは、正気でいないけん。おまえたちにゃーことあるごとに狂った号令を出すやつらと正面から向き合ういう務めがまだのこっとるんじゃけぇ」
「広島の子どものなりたかったものになりんさいや。こいから先は、のうなった子どものかわりに生きるんじゃ。いまとなりゃーそれしか方途がなあが。……そんじゃけぇ、狂ってはいけん。おまいにゃーやらにゃーいけんことがげえに山ほどあるよってな」
「狂った号令を出すやつらと正面から向き合ういう務めがまだのこっとるんじゃけえ」
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