大正・昭和時代に活躍した落語家 金馬師匠の釣りエッセイです。
金馬といっても3代目三遊亭金馬。
金馬師匠は、1964年にお亡くなりになっているから知っている人は少ないだろうね。
落語に関しては、古今亭志ん生や桂文楽らとともに落語の一時代を築いた落語家で「居酒屋」、「目黒のさんま」、「長屋の花見」等が有名。
この3代目金馬師匠は、とても釣りが好きでネ、釣ってから食べるまでの「釣りの醍醐味」を語ったエッセイが数冊あります。
どのくらい釣りが好きかと言えば、昭和29年(1954年)千葉県に釣りに行った帰り、総武線の線路の上をトボトボと歩いていて、鉄橋で列車にはねられ、左足を切断。
そんな大事故を起こしたにもかかわらず、本業の落語よりも釣りの重要な日~例えば禁漁解禁日等~のスケジュールを優先させ、その日の高座を休んでしまったそうです。
寄席の表に「金馬急病につき休演」と張り紙が出ているのを見たお客が、「金馬、また釣りか」と言ったとか・・・・。
で、本の話に戻るけど、同書は単なる釣り指南の本じゃありません。
だって昭和初期~終戦前後の釣り道具は、現在の釣具と比べ物にならないぐらい貧弱だしね。
この本の面白さはネ、落語を通して四季折々の魚釣りの極意から、旨い食い方、道具、餌、釣場の話などを川柳や小噺などを交えて語っているところなんです。
読んでいて思わず一杯やりたくなっちゃう釣りの妙味と奥深さを語る極上の釣りエッセイなんですよ。
中でも「エッ!」と思う魚が出てくるんです。
それは・・・・、アオギス!
釣りをする人なら知っているよね。
金馬師匠も江戸前の釣りの代表に挙げているのが、アオギスの脚立釣り(写真)。
このアオギスは、現在では東京湾からいなくなった幻のキスで水産庁の絶滅危惧種に指定されている魚なんです。
アオギスという魚は警戒心が強く船の影を嫌うため、浅瀬に脚立を立てて釣るそうです。
「暗いうちに脚立へ乗っていると、空の星がひとつふたつと消えていく。だんだん四方が明るくなる。それも初夏だ。見ると、点々と脚立が見えてくる」。
こんな釣りが「江戸ものには千両の値打ちがある」のだという。
中川や江戸川河口の浅瀬の海中に脚立を立ててアオギスを釣る「脚立釣り」は、東京湾の初夏の風物詩だったそうですが、昭和30年代に東京湾の干潟が埋め立てられ、アオギスも昭和37年の捕獲例を最後に姿を消してしまいました。
いつの日か東京湾にアオギス釣りの脚立が立つのを見たいものですネ!
・「魚釣りと人生は実によく似かよったところがある。女は男を釣り、男は女を釣ろうと思って釣られている」
・「釣れた魚では面白くない。釣った魚こそ釣りの醍醐味。むずかしい魚ほど、釣り甲斐があるというもの」
・「ぼくの釣りは一年中何でも釣る。釣り仲間がぼくのことを大道洋食屋だという。何でもできるが何でもうまくない。けだし名言である」(金馬「浮世断語」)
コメントをお書きください